オーバーツーリズムの解消に役立つと想定し、CMで放映された12ヶ所の人流データを分析
「そうだ 京都、行こう。」CMの広告効果を研究テーマとした経緯について
松本様:
松本ゼミでは例年、徹底的にデータ分析を行い、定量的な根拠を元に議論することをコンセプトに研究を実施しています。今回、丸谷さん、河合さん、玉川さんの3名は人流データを活用する研究をチョイスしてくれたのですが、実は「そうだ 京都、行こう。」CMの広告効果をテーマとするまでに試行錯誤した経緯があるんです。
丸谷様:
身近な地域を分析するほうがイメージも湧きやすいと思い、近畿圏に絞ってテーマを検討する中で、最初はアニメの聖地巡礼に興味を持ったのですが、松本先生と話し合った結果、分析がしにくいだろうと。そこで次に考えたのが、高速道路とEXPO2025でした。こちらの分析は終わっていたのですが、あまり良い結果が出ませんでした。そこで、何が問題視されているのかという観点から、オーバーツーリズムや観光公害を抑制する効果を発見できるのではないかと考え、JR東海の広告「そうだ 京都、行こう。」に着目しました。
玉川様:
京都では観光客の増加によってオーバーツーリズムが問題視されている中で、広告によって人流を誘導する試みに関心が寄せられています。東洋経済オンラインの記事に、京都市の観光担当者のコメントとして「CMの影響による具体的なデータがあるわけではないが、特に首都圏方面の誘客というインパクトは大きなものだと思う」という一文が綴られていました。このコメントを目にしたことをきっかけに、CMの有効性を調べることで、混雑が緩和されているかをデータから明らかにする必要があると思い、調査を始めました。
導入の決め手ついて
松本様:
実は他社でも類似したサービスを提供していることは知っていました。実際、検討もしてみたのですが、どうにもコスト面で折り合いがつかなくて。そこで、インターネットで検索してKLAの存在を知りました。ゼミでもなんとかなる費用感だったので無料トライアルを試したところ、他社のサービスに比べて精度が高いと感じました。また、Google MAPに依拠した直感的な操作画面、ユーザーフレンドリーな操作性も魅力でした。学生の研究にとってデータの扱いやすさは重要な要素となりますので、いきなり表計算ファイルを入手しても上手くはいかないんですね。当然、対象施設や期間を変更して調査することもあります。その点、KLAは簡単な分析であればボタン操作一つですぐにビジュアル化されますので、試行錯誤を繰り返す学生の研究とすごく相性が良かったことが、導入の決め手となりました。
CM効果の有無に加えて、データから観光客の分散も確認
調査期間、具体的な活用方法を教えてください。
玉川様:
データの調査期間は2018年1月1日から2024年10月15日までです。人流を分析したスポットは、神護寺・六波羅蜜寺・祇王寺・常寂光寺・真正極楽寺・金戒光明寺・建仁寺・南禅寺・大徳寺・賀茂川・清水寺・京都駅の12ヶ所。これらはCMで紹介されているスポットになります。また、変数としましては、道路の通行人口、交通量、時間を用いました。
KLAを活用したデータ分析によって、どのようなことがわかったのでしょうか。
玉川様:
広告のリスティング効果は、CMが放映されて1ヶ月後からと言われていますので、CM放映1ヶ月後からの3ヶ月間を調査期間に設定しました。結論としましては、施設への来客数の前年比変化データから、CM効果が見られたスポットと、効果が見られなかったスポットがあることがわかりました。
河合様:
それに加えまして、広告効果が見られたスポットの通行人数のピークを3ヶ月ごとに分析したところ、施設によってピーク時が異なることがわかりました。これは、CMで施設が紹介された順番と連動していると考えられるため、CMを見た観光客は、その紹介通りに観光に来る可能性が高いことが示唆されました。また、2019年10月に真正極楽寺と金戒光明寺のCMが放映されたのですが、その年の12月から翌年2月末までのデータを分析したところ、この期間の京都駅の通行人数が7%増加しているにもかかわらず、清水寺では観光客が約10%減少していることがわかったんです。これにより、CMの影響によって観光客が分散されたと考えられます。
丸谷様:
今回のデータ分析結果のまとめとしましては、CMが放映されたスポットでは、効果が見られたスポットと、見られなかったスポットがあったこと。CMを見た観光客は、その紹介通りに周遊する可能性が高いこと。真正極楽寺と金戒光明寺のCMが放映された年は、清水寺の来客数が減少していることから、CMによって観光客が分散することがわかりました。つまり、CMを見た人にとっては、紹介された場に行く機会をつくるとともに、認知されていない観光地を知ることにもなりますので、オーバーツーリズム、観光公害の解消につながる可能性があることがわかりました。
今回のデータ分析を元に、次の展開は考えられていますか。
河合様:
今回使ったデータに合わせて、年齢層別や男女別、居住地などを取得し、異なる属性にも広告の効果があるかを調べたいと考えています。「そうだ 京都、行こう。」のCMが放映される地域は限定的なので、観光客の居住地を調べることで、どの地域から多くの人が訪れているのか、あるいはどの地域が少ないか、といったことがわかると、観光業にとって貴重なデータになるのではないかと思っています。
KLAを活用した分析を経験したことで 人流ビッグデータの価値を再認識できた
KLAを操作するうえで難しかったことはありましたか。
丸谷様:
一応、全員がKLAを使いましたが、ライセンスが1つしかなかったため、同じタイミングで使うことができないので、基本的に僕が代表してデータを集めました。最初は商圏範囲の設定パターンを変更する操作に少し戸惑った部分もありましたが、調べるうちに使い方がすぐにわかってきたので、そこからは楽しく使うことができました。分析を行う過程で、徐々に興味深い発見に出会ったことで「もっと調査したい」という意欲やモチベーションにつながりました。
河合様:
僕は最初のサマリーを理解した程度なのですが、1時間ごと、1週間ごとの人流の移り変わりなど細かいデータを取得して分析できるので、使いやすくて実用的だと感じました。
玉川様:
私は少しデータの取得を手伝ったくらいですけれど、同じ期間内で複数箇所のデータを取る際に、同じ流れを何度も繰り返したのですが、バッチ処理ができると一度に済んで時間の短縮になって便利だろうなと思いました。
松本:
KLAに関しては私も学生も大変満足しています。人流ビッグデータの価値に改めて気づくことができました。今回、学生がKLAを使用した期間は1ヶ月という短いものでしたが、1ヶ月でここまで分析できたことを驚いているんです。正直なところ、ここまでできるものなのかと。操作性の高さはもちろんのこと、学生も「楽しかった」と言っていたように、データを掘り下げる価値がすごく高かったのだろうと感じています。他の大学でも活用できるでしょうし、ゼミやアクティブラーニングなどへと、どんどん拡張して活用できる可能性があると感じました。
(取材月 2024年11月)